BCPコラム
投稿日: 2025年12月9日
※こちらのブログは通信業界歴15年の防災士が書いたものです※
本シリーズでは、企業が直面する7つの通信リスクと、事業を止めないための冗長化設計・実践事例をわかりやすく紹介します。
大規模災害や広域停電が起きたとき、企業や自治体にとって最初に直面する課題の一つが「情報の断絶」である。
その中心となるのが通信インフラだが、多くのBCP(事業継続計画)では “通信の停止によって何が起こるのか” が十分に整理されていない。
本稿では、BCPの根幹である「通信確保」をテーマに、災害時の復旧プロセスや各通信手段の特性を踏まえながら、ビジネスの視点で深掘りする。
内閣府の定義では、BCP(Business Continuity Plan)は
「不測の事態が発生しても、重要業務を中断させない、あるいは中断しても短期間で復旧させるための行動計画」
とされている。
では、通信インフラはその中でどのような役割を担っているのか。
答えはシンプルである。
通信は、すべての業務を支える“基盤”である。
重要業務の一つとして明記されるケースもあるが、実際にはもっと根源的な意味を持つ。
通信が止まれば、在宅勤務・クラウドシステム・決済・受発注・顧客対応――
企業が日常的に行っている業務の大半が機能不全になるからだ。
BCP策定時に
などは検討されても、
「通信が止まったとき、業務は何分で麻痺するのか」
という問いが十分に議論されていない企業が驚くほど多い。
災害発生後、通信復旧は次のようなプロセスで行われる。
基地局・通信ビル・中継設備はすべて電力に依存している。
広域停電が起これば、予備電源が持つ数時間〜数十時間で停止する可能性がある。
地震・津波・土砂災害によって物理破壊が起こる。
能登半島地震では、通信ビルの停電に加えて中継伝送路が多数損傷し、7,800件以上の固定電話回線が停止した。
移動基地局車や仮設ケーブルを投入したくても、道路が塞がれていると現場に入れない。
熊本地震でも、道路損壊が復旧開始を遅らせた地区があった。
避難所、行政機能、医療機関などが優先され、企業の復旧は後回しになる。
この復旧プロセスを見ても、
“企業の通信復旧は数日〜数週間遅れる可能性がある”
という前提でBCPを設計する必要がある。
BCPで重要なのは、「どの通信手段が、どんな状況で使えるか」を理解しておくことだ。
以下では、代表的な通信手段の特性を整理する。

能登半島地震では、複数の基地局が停電で機能停止し、無料Wi-Fiスポットでの通信依存が高まった事例がある。
BCPでは「携帯回線は万能ではない」ことを前提にする必要がある。
埼玉県八潮市での道路陥没事故では、光ファイバーが損傷し、周辺企業のネットワークが長期間停止した。自然災害ではなくインフラ事故であっても、光回線の脆弱性は明確に露呈する。
自治体の災害対策本部やDMAT(災害派遣医療チーム)でも利用されるが、企業利用ではコストや設営面のハードルが残る。
あくまで限定的な通信手段であり、企業の業務システムを支える“インフラ”にはならない。
BCPで最も重要なのは、
“通信停止が業務に与える影響を可視化すること”
だ。
たとえば
現代の多くのビジネスプロセスがネットワーク接続前提で設計されている。
つまり、通信が止まれば “最優先で守るべき重要業務” が即時停止 する。
能登半島地震でも、クラウド基盤にアクセスできないため業務が完全停止し、紙と手作業に戻らざるを得なかった企業が多数存在した。
BCPにおける通信対策は「付帯項目」ではなく、計画全体を支える“根幹”として位置づけるべき理由はここにある。
近年の導入事例を見ると、通信の冗長化によって事業継続性が飛躍的に向上したケースが増えている。
大型イベントの発券システムでは、一瞬でも通信が途絶すれば長蛇の列が発生し、顧客満足度に直結する。
ある企業では、複数キャリアの通信を自動切替できる仕組みを導入したことで、1,100人以上が集中する初日も途切れず運用できたという。
山間部のホテルでは、天候によって通信品質が激しく変動し、決済端末が停止することが課題だった。複数キャリアの冗長化を導入したところ、悪天候下でも安定運用が可能となり、決済停止による機会損失がゼロになった。
移動型医療サービスでは、クラウド上の電子カルテや診療情報にアクセスできなければ、診療自体が不可能になる。車載通信に冗長化ソリューションを導入したことで、医療従事者と遠隔地をリアルタイムでつなぎ、災害医療にも応用可能なレベルの安定性を実現している。
これらの事例が示すのは、
“止まる可能性がある通信” と “止まらないよう設計された通信” では、企業価値に直結するほどの差が出る
という現実だ。
BCPは「紙の計画」を作ることが目的ではない。
企業が最も正しく判断し、最も効率的に動き続けるための実用的な仕組みだ。
その中で通信インフラは、
といった企業機能の基盤になっている。
だからこそ、BCPの中心テーマとして、
“どんな状況でも通信を止めない設計”
が求められる。
次回のコラム③では、自然災害だけでなく 老朽化・事故・事業者障害 といった「見えない通信リスク」についてさらに詳しく解説する。
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